〜最後の嘘〜
最期のときが近い。食事がとれなくなった。
何が食べたいか尋ねると、釣りが趣味だった◯◯さんは「カンパチの刺身」と答えた。
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私は漁師の父に船を出してもらい、カンパチを釣ってお家に届けた。あいにく小ぶりの1匹のみ。
「◯◯さん、小さいやつですいません」とお渡しすると、
「これくらいが1番美味いとよ」といって、その夜1人で魚を食べ切ってきれた。
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しばらくして次の往診日、
「小さくてすいませんでしたね」と苦笑いしながら話しかけると、大きく目を見開いて
「先生、あんげ大きなカンパチは見たことなかった!家族みんなでやっと食べ切ったわ!ありがとう!」と感謝してくれた。
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せん妄だ。しかしそのせん妄は、死期が近づく中で私の釣ったカンパチをかなり美化された思い出にしてくれていた。
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少し間をおいて、私は口を開いた。
「私も漁師町に育ったけど、あんな大きなカンパチは初めて見ましたわ!竿が折れそうでしたよ!」
◯◯さんも、隣にいた奥様も顔をくしゃくしゃにして笑ってくれた。
その数日後、家族に囲まれて穏やかに息をひきとった。
私が彼についた最後の嘘になった。
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またあのときに戻っても私は同じ嘘をつく。
そして同じように、あなたとご家族に出会えた縁に感謝します。
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ある在宅医療のおうち物語。
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