おうち物語②

~何も知らない~

末期癌の60代男性。一人暮らしで親族はいなかった。
口髭の似合うとても紳士な方だった。
ある朝、自宅で1人息をひきとった。

死亡確認を行った後、当院の看護師、訪問看護師がエンゼルケアをはじめた。すると一緒にいた担当ケアマネの男性がおもむろにご自宅のCDプレーヤーの電源をいれ、洋楽をかけた。
詳しいことは分からないが、オールディーズというのだろうか、
心地よく軽快な洋楽が朝の静かだった部屋に響き始めた。

「この曲、いっつも聴いてたんですよ。大好きだったからかけてあげましょう。」
ほほえみながらケアマネが言った。

「◯◯さんって、こんなおしゃれな音楽が好きだったんですね。」
私がつぶやいた。

すると訪問ヘルパーが台所の棚から、綺麗な自家製梅酒をとりだしながら独り言。
「これ飲むの楽しみにしてたね。棺に入れてあげんとね。」
「◯◯さん、歩くのも大変なのに梅酒なんか作ってたんですか!」
驚きながら私がつぶやいた。

エンゼルケアをしながら、今度は当院の看護師がつぶやいた。
「親族が一人もいなくて一人で闘病してたけど、さみしくなかったでしょうかね・・・」

すると訪問看護師が表情を緩めて話しはじめた。
「この前来た時に聞いたんですよ、さみしくないですかって。そしたら◯◯さん、
『体調は悪いけど今が人生で一番幸せなんです。
在宅医療が始まってからは、今までの人生で一番みんなに優しくしてもらってます。』
って笑いながら話してましたよ。」

涙が止まらなかった。

私たちは何も知らない。
あなたの人生で何があったのかは誰も知らない。
知ったつもりでいたのは病気のことと、
あなたの人生のほんのほんの一部のこと。

あなたの人生で1番幸せな時間をともに過ごせて、
私たちも幸せでした。

ある在宅医療のおうち物語。

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